俺と君とお前
- 浅葱涼藍
- 2023年4月18日
- 読了時間: 5分
相田優也:三十五歳。闘病生活を経て妻を亡くす。
高木篤史:三十五歳。独身。昔は遊んでいた。
相田の自宅のリビング。ソファに向かい合う二人
テーブルには赤ワインが二本とチーズその他つまみ
二人 お疲れ様
乾杯
相田 やっぱこれ美味いな。そっちもいつものか。
高木 これがやっぱり一番だからな。
相田 お、しかもこれいつもより良いチーズだろ。ありがとな。
高木 まぁ、これくらいはな。
相田 夜通し酒に付き合ってもらうのに悪いな。
高木 朝日を拝む前に潰してやろうか。
相田 それもいいかもな。怒るやつももういねぇし。
高木 夢枕で凛さんに怒られそうだ。
相田 あー……酒飲んで、夢で逢えたらいいけどなぁ。
高木 盆まで待て。…あーなんだ、その、ひと段落着いたんだし、ちゃんと悲しむっての
も大事だぞ。
相田 そうだな……
高木 まぁ、とりあえず飲めよ。
相田しばらく無言で酒をあおる
相田 俺、これから一人で生きてくんだな……どうなるんだろうなぁ。
高木 どうとでもなるって。俺はずっと一人だし。
相田 家族っていうかさ、一緒にいる人っていうか、そういうさ、身内っていうの?
居ないと辛いのかとか、老後どうなるのかとか、ぼーっとしてるとつい考えてんだ。
俺さ、凛のこと本当に大事だったんだな。喪失感ってやつか、どうしても消えねぇ。
高木 そればっかりはしょうがないだろ。誰かじゃ替われないからな。
埋めれるもんなら埋めてやりたいけどさ。俺じゃ、お前の心には俺の場所しか作れないだろ。凛さんの場所は、思い出で埋めとけ。
相田 浸れるようになればな……。
間
相田 そうだよ、お前は誰かいい人いたりするのか?
高木 あー俺はな、いいんだよ。
相田 昔は遊んでたよなーー、あぁでも、社会人になってからは聞かないか?
高木 俺にだって心に決めたやつがいるんだよ。
相田 ……初耳だ。どんな人なんだ?
高木 お前には秘密だな。
相田 水臭いな、教えろよ。
高木 秘密だ。
相田 いいじゃねぇかー教えろよ
相田酒片手に教えろと絡む
高木 お前、相当飲んだな…?
相田 高木に一途に思われるなんて、よっぽど良い人だろ。俺の知ってる奴か?
高木 あーーくっそ、お前なぁ……。
相田 独りってのは寂しいなあ!
高木 独りじゃない。俺が居るだろ。酒飲むくらいしかできないけどさ。
相田 凛が居なくなるのなんて、もうずっと覚悟してたはずだった。
ここまで持ってくれたのは奇跡に近いって、医者も言ってた。
ずっと病院にいてさ、この家には一人だったのに、なんでか凛が逝ってからの方がだだっ広くてな……。
高木 ……しばらく泊まり込んでやろうか。
相田 ……マジで良い奴だよなお前。俺のことなんかいいから、お前が幸せになれよ。
高木 ……俺はお前が生きててくれたら幸せだぞ。
相田 なんだそれ、プロポーズにはちょっと物騒だな。
高木 本気で心配してんだぞ。
相田 俺は大丈夫だって。俺もお前のこと心配くらいするぞ?
その、心に決めた人ってのと、幸せになれるように頑張れよ。
高木 この酔っ払いめ。あーくそ、俺だって酔ってやる。
高木グラスの酒を一気飲み
相田 えっ……お前……珍しいな?
高木 お前さ、俺の心配もわかってくれよ。好きな奴が死にそうな顔してたら、誰だって
心配するだろ。
高木 隈なんかつくって、明らかに葬式の時より痩せたし……さっきから酒ばっかりでツ
マミほとんど食べてないだろ。
相田 あーーバレてたか……。
高木 飯もほとんど食べずに、仕事だけして誤魔化してるだろ。
相田 俺より俺のことわかってるんじゃないか。
高木 何年の付き合いだと思ってんだ。ったく、美人が台無しだぞ。
相田 もう何年になるんだ?……計算するのもめんどくせぇ歳になったな。
……凛とは八年しか一緒にいられなかった。本当、俺にはもったいない嫁さんだ。壊れそうなくらい小さいって最初に思ったけど、本当に先に逝っちまうなんてな。
高木 ……承知で結婚したのはお前だろ。
相田 そりゃあな。お色直しには黄色のドレスだって、小さい頃からの夢だって、言って
たからな。俺に叶えられるのはそれくらいだ。
高木 綺麗だったなぁ、あの時の凛さん。……羨ましかったよ。
最期まで一緒に居れたんだ、立派な旦那だよお前は。
相田 ありがとな。お前が言うなら、ちょっとは自信持てる。
何かさ、凛が逝ったときさ、空がすっごい綺麗で、あいつの好きな金木犀が香っててさ……
高木 ああ
相田 あいつらしいよな。
間
相田 ……そっか、俺、お前がいなきゃヤバいのか。
高木 どうした急に。
相田 よく考えたらさ、お前に依存してんだと思ってな。
高校の頃から何かあったら泣きついて、凛のことだってお前くらいにしか話せねぇ。
高木 昔っからだろ。今更だ。
相田 迷惑かけてたら言えよ。
高木 迷惑な訳ない。話さない時の方が気になる。
相田 だいたい何でも話すだろ
高木 ここ二年くらいは、お前の弱音聞いてなかったぞ。
相田 そっか。
高木 ああ。
相田、しばらく考え込む。沈黙。
相田 うん、そうだな、悪くない。
高木 何がだ……?
相田 お前と過ごしてく未来はしっくりくるな、と思ったんだ。
高木 なんだそれ
相田 なんだかんだ言って、俺お前のこと大事だし、お前は俺のこと大事だろ。
高木 あ?……まあな。
相田 やっぱり独りじゃこの先どうなるかわかんねーだろ。
高木 お前危なっかしいしな。
相田 これまでも一緒だったようなもんだし。
高木 これからも、ってか?
相田 だな!
高木 引っ越しは手伝えよ。
相田 もちろん。
相田、伸びをして勢い付けて立ち上がる
相田 もう一本開けるか!
高木 ああ、ツマミつくるぞ。今度はちゃんと食え。
相田上手ハケながら
相田 ワインってまだあったかー?
高木、相田の後ろ姿を見つめて微笑む。
高木 凛さんの好きな奴も買ってあるぞ
高木、追うように上手ハケ。
ハケ後、音響キッカケで暗転。
留言